だいたいうろ覚え

物忘れが激しくなってきたので備忘録

バイバイ、ブラックバード 伊坂幸太郎

久々に実家に帰ったら、自分の部屋に本が積み上がっていた。どうやら新しい部屋の主である母親が本棚の整理をしているようだった。待ってよその積み上がってる本まだ読んでないんですけど!?ということで母親の本を拝借して読んでいる……。

前置きが長い。

 

この本は、とある事情により俗世を離れないといけなくなった主人公星野が五人いる彼女に別れを告げて回る短編集だ。

昔友人が「恋愛は別れ方に差が出るから恋愛小説はそこが肝」みたいなことを言っていてなるほどなあと思ったのだけど、今にして思えば彼は恋愛と程遠い人だし誰かの受け売りなのかもしれない。謎だ。付き合っている期間が長ければ長いほど分岐点も多いわけだから、そりゃ別れ方のほうが個人差はでかいよね。

作中では、主人公とその彼女の別れ×5が描かれるわけなのだが、"別れ"なのでもちろんどこか悲しい雰囲気が漂い、読後感はあまりよろしくない。とくにどちらかが望んだ別れではなく、理不尽な成り行き上のことであるからなおさらだ。コミカルに描かれている部分や、主人公に同情(同調)できない書き方もされているにはされているが……という感じ。

主人公の監視役である繭美の言語感覚は面白いなと思った。彼女は常に辞書を持ち運んでおり、気に入らない(?)単語を消して使っている。

「見てみろよ、わたしの辞書に、『迷惑』ってのはねえんだよ」とサインペンで消えたその項目を突きつける。さらに、頁をめくる。

「ちなみに、『気配り』もねえからな」

辞書とは本来、知識や語彙を増やすためのものだ。それなのに逆に語彙を減らすために使うとは。加えて行動まで辞書に制限されるとは面白い。わたしは言葉は文化の基盤だと思っているので、常軌を逸している繭美が「日本語の辞書」をアレンジして使っている様がなんだかしっくりくるなあともおもった。サインペンというのも、不可逆性があっていい。

 

付属のインタビューを斜め読みして、この作品は郵便を使って公開されただとか、太宰治の小説が元になっているとか、「へえー」となったがいずれも詳しくはないので感想には組み込まないことにする。(監視役の女性が美人かそうでないかとか、それによって太宰と伊坂幸太郎どちらが女性を理解しているかとか、心底どうでもいいことである。)