だいたいうろ覚え

物忘れが激しくなってきたので備忘録

風花 川上弘美

買ったけど読んでなかったなと思ってなんとなく手にした本がうまくいっていない夫婦の話でなんとなく罪悪感を感じてしまった。罪悪感を感じてしまっている自分がほんとうにいやだ。

 

風花って綺麗な言葉だなと思った。Wikipediaによると、晴天時に雪が風に舞い降ることを指すらしい。章の名前が「春昼」「下萌」とかあまり聞き慣れない季節の名前でそれも楽しい。

ちなみに、風花について調べていたら表参道のカフェが検索で出てきた。お洒落な感じで気になる笑

 

あらすじを書くのが苦手なので、公式から引用することにする。

ねえ、わたし、離婚したほうがいいのかな。普通の夫婦を続けていくって、どういうことなんだろう—。のゆり、33歳。結婚7年目の夫・卓哉の浮気を匿名の電話で知らされた。卓哉に離婚をほのめかされて、途方に暮れながらも日々の生活は静かに続く。やがてのゆりは少しずつ自分と向き合い、一歩ずつ前へと進み始める。移ろう季節のように、ゆるやかに変わっていく愛の形を描いた傑作恋愛小説。【「BOOK」データベースの商品解説】

小説の中で、小説の面白さについて話すシーンがある。

なんだかこう、知らない人たちが知らないことしてるのに、だんだん親しい感じになっちゃうのが、面白い、のかなあ。

この作品について語るとき、「まさしくこの作品はこういう作品だ」と言うふうにこの部分引用されまくっているのかなと思ってしまった。まあでもそんな感じする。

主人公のゆりはとにかくも流れていくひとだ。話の展開がほとんど受動的。でもその地に足のついてない感じが何故か心地よい。

技術的な話をすると、書かないことが上手い作品だと思った。絵に白い線を無数に入れても、遠くから見ると脳が勝手に補完して何が描かれてるかわかる、みたいなイメージ。しかもその白い線結構太い!たとえば急に若い男(瑛二)が出てきて「誰だ?」と思えば次のページには「医療事務の講座で出会った」と書いてある。でも医療事務の講座に通い出す描写もなければ通おうと思う描写もない。あるのは病院でバイトを始めた、ということだけ。そこから「ああ、バイトを始めたから講座に通い出したんだな、真面目だなあ」と推測ができるのだけど、あくまでも推測だ。この、絶妙に読者を踏み込ませない感じが全編にわたって漂っている。作中の言葉で言えば「ほとんど知らないけれど、少しだけ知っている人が、この世には、多すぎる」だし、「知らない人」なのに「親しい感じ」もする。

あと、何気ない一文が面白い作品だなと思う。

「体に悪いことって、楽しいからね」「悪口を言う女って、ほんとうは、色っぽいんじゃないかな」

無言電話に粘着される描写もあるのだけど、今の私の状況と相まって結構うけてしまった。

無言電話を受けるのはものすごく嫌だけれど、かけ続けるほうが、もっと嫌かもしれない。だって、かけられるほうは何も決めなくていいけれど、かけるほうは、いつかけるか、どのくらいかけるか、そしていつ止めるかを、自分で決めなければいけないから。

早くその人が、電話を止めることができるといいのだけれど。決心して。思い切って。依存し終わって。

ちょっとこの視点はなかったなって面白かった。嫌がらせしてる側が主導権握ってると思いがちだけど、受動的なのゆりならではの発想。私も鍵垢からの引用リツイートに辟易してたとき、気にしてない振る舞いをするより「それ感じ悪いよ」って言ってあげる方がその人にとって誠実かなと思ってツイートしたことあるけどここまでの発想には至らなかったな。

 

「不倫って、音にすると、ちょっときれいな響きの言葉だね」

た、たしかに……。