だいたいうろ覚え

物忘れが激しくなってきたので備忘録

埋葬は三日月の朝をくちずさむ 感想

作品の内容について

末原拓馬さん、という方の作品を観たのはそれほど多くないのだけれど、言葉を物語にする方だなと思っています。作品を観るとその言葉の強さが印象に残る。

この物語は搾取するもの搾取されるものが分かれている世界からはじまる。搾取する側は搾取していることになんら疑問を持たず、搾取されるものを当たり前のように決めつけていた。しかし搾取されるものは本当に「搾取されるもの」「不幸なもの」なのだろうか?そんな物語だったように思う。そして、たとえ「食べる/食べられる」という一見受動的な関係性も「託す/受け取る」というどちらも能動的な関係になれる、目指せる、そういう美しさが善いのだという物語のように感じられた。そしてこの能動性こそが世界で生きる役割なのだと。関係性の数だけ、生きる意味で溢れている。

自ら命を絶つものがあとをたたないライオンたちがいるのに「食べ物をよくする」なのどういうこっちゃ?って最初は思ったけど、幸せに生きるスゼジュたちのことを知り、食べることで生きる意味を与えるというロジックなのかな。

また、作中では「愛」というのもキーワードのひとつだ。どうして人間って決まった形もないものに対して「愛とはなんだろう」だなんて考え出してしまうのだろう!ビツリスがニッコクを助けたのもクガイニに褒められて嬉しいのも愛だし、モキがケプジュに長生きしてほしいと思うのも愛だし、マシータがムロークを食べたくないと思ってしまったことだって愛だ。そしてニッコクを失ったクガイニが死にたいと思ってしまうことだって、どうしようもなく無性に愛だ。愛とはなにかなんて知ってどうするんだろう。愛があることを知ればそれでいい。なんだって愛でありうるのだから、すきに愛して生きるしかないんすよ。

台詞の巧みさだとか、緊張と緩みのバランス、世界観を特殊にさせすぎないセンス(世界観にそぐわない合成音ぽい効果音とか)はさすがというか。感想なのに「さすが」で終わらせるの良くないけど。号外妨害存外とか血を引く/引くほどいやとか、つもりがないとどのつもりみたいな言葉遊び大好きなんだよなあ。(5日の絆。…言ったってどうしょうもないことだけど、私も5日間、この作品と寄り添いたかったな……。)

あと個人的には、先日見た、同じく末原さんの作品「パダラマ・ジュグラマ」で引っかかったところのアンサーみたいなところもあって面白かった。食べることは、悪いことじゃない。おぼんろさんでよく見るタイトル幕ドーンの演出があったけど、あの演出はおぼんろさんの雰囲気あふれる舞台美術とセットで効果を発揮するものだと思っている。(美術の没世界観とタイトル幕はじめOPの虚構感のギャップがいい)今回は舞台美術がシンプルだから合わないんじゃないかなと少し思った。

 

キャストについて

まずは主演の橋本さん。本当に華がある方だなあ。表情がバリエーション豊かなのでずっと観ていられるなあと思った。最後の演説で出てくるところ、それまでとは顔つきが全然違くてびっくりする。

ムローク役、石渡さん。物静かな役を演じているところしか見ていないから少し驚いた。でも橋本さんとは別の意味で華がある。そういう役だというのもあるけど、出てくるだけで場が明るくなるし言葉を発せば場が和らぐ。台本に書いてある台詞だとわかっているのにアドリブかなと思うくらい自然にツッコミをしていくのが面白かった。

マシータ役藤田さん。冒頭の、ビツリスを椅子に座らせる手が好きだ。終始漂わせているかっこよさと、回想の時や終盤な真実を知ってしまった後に前面に出てくる可愛さを一緒に出せるのがすごい。4歳のめちゃくちゃ可愛いなあ…

ニッコク役松岡さん。うってかわって可愛さに全振り。方言のような喋り方、クセになる。まさに少女という感じだった。冒頭の壺に納めるシーンの歌声が、とても綺麗で聞き惚れてしまった。

クガイニ、岩佐さん。最初名前が頭に入ってこなくて、耳はクガイニと聴きとってるのに頭の中で文字に起こすとクガニャンになってしまって勝手に困った。妹を失った悲しみが癒えるのかは分からない(癒えること=手放しの善とは思わない)けど、モキやムロークが彼を受け止めてくれていたのが私は嬉しかった。

墓守の末原さん。先に見ていた友人から「末原さんの第一声にしびれた!」と聞いていて、最初のセリフはなんだろうとドキドキ。あ、出てきた末原さんだ!「いやね、あっしたち多くの臣下に見守られて……」第一声墓守じゃないんかい!という感じでした。墓守は第一声だけじゃなくめちゃくちゃかっこよかったです。迫力がすごい。

ケプジュ役さひがしさん。どんなに臭いセリフでもさひがしさんがいうと「だれかに伝えるために出てきた言葉」になるのどうしてなんだろう。墓守とのやりとりがさすがというべきか、小気味良く楽しかった。

モキ役たか喜代さん。見終わった後、さひがしさんのケプジュとやりあえるのはたか喜代さん以外考えられないって思った。幕を開ける仕草が好き。あと最後の最後のシーンで、ケプジュが差し出した手に自ら頬を寄せるのなんだかドキドキした。

リヅゼン、レイナさん。歌は言わずもがなかっこいい。「黄泉の国〜」の曲が好き。メロディーラインも素敵なんだけど、レイナさんの力強い声には強めの歌詞が合う〜!!セリフの厳かな感じもかっこよかった。レイナさん可愛いのにかっこいいんだもん。すき。

そのほかスタッフの方々もありがとうございました!鮫嶋さんが想像以上に出演してておもろかったです。鮫嶋さんがマシータにゴロニャンしてるの可愛かった。

 

作品外について

「これ観れるんですか?」とカフェの利用客とか、近所の方?が何人かスタッフさんに聞いていたらしいので、多分立地的には良かったんだと思う。残念ながら当日券の倍率が高すぎてその方々の観劇は叶わなかったけど……。一般客は当日券のみなのはこういう地元の方々に向けてのものであるから、だと私は思ってて(質問したけど回答くれないから合ってるかはわからない)さらにいえば一般向けに事前販売をしてしまうと「タダ見したいだけの観客」に入り浸られてしまう可能性が高いと思っているのでこの形態はいいと思う。(配信だと検索した人にしか届かないのよ)ただ、キャストファンの見込み動員数とキャパの均衡はやはり見直すべきで、もっというなら「叶うのなら余すところなく観たい」というファンが大多数ということを考慮にいれるところから始めてほしい。難しいね。わたしだって「主旨を尊重したいから(多くの方が見れるよう)チケット控えめに申し込もう」って思ったけど、それでも最低2回は行きたいよ。本当はもっと観たいよ。大多数の人は主旨<チケットで入会してくるんだから、そりゃなおさら取り合いになるよ。

そもそも「普通の劇場じゃない場所で」と「Pがどうしても出演してほしかったくらいの素晴らしいキャスト陣」と「新規観劇者を増やす」って相性が悪いんですよね。難しいね。

これは身内びいき(身内ではないが…)を承知で書きますが、Twitterでどうしてもパブサしてしまうんだけど、「その批判は的外れだろう」というものも見かけてしまって少し悲しい。自業自得な部分と、そこから派生して重箱の隅突かれてる部分はやはりあるので……。最近サロンにはいった方は想像つかないかもしれないけど、応援していることを後悔したことはないです。まあ胃を痛めたりブチギレたりすることはあるけどね!!!