だいたいうろ覚え

物忘れが激しくなってきたので備忘録

推し、燃ゆ 宇佐見りん

つらい。いや、つらくないけど、つらい。

 

Twitterでこの作品の試し読みが流れてきて、翌日に買いに行きました。「アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐ」という文章を見て読まねばならないと思った。最近RTでよく見かける「同人女の感情シリーズ」もそうだけど、私たちの感情はあっという間に言語化され作品に落とし込まれるのだなあと思った。推しとファンの作品といえば「ガチ恋粘着獣」も好きだけど、あっちは「自分の中の推しに中の人を押し込める」話で、逆にこの作品は推しを読み解きたい主人公の話だ。

 

推しを推し続けてきた主人公(社会不適合者である)の推しがある日炎上してしまいファンも減り人気もさがり……という話です、簡単になぞると。私の推しは絶対に人を殴らないので(これは私の"解釈"です)安全圏から読むとつらくないです。でも主人公あかりだって推しこと真幸くんが人を殴るような人ではないと解釈していた。あかりは解釈を間違えた。つらい。人を解釈するなんてどだい無理な話で、その時のコンディションとか、気分とか、いろんなものに影響されて人の考え方なんて変動していくものだ。私だってきっと常に解釈を間違えている。つらい。それでもあかりは(そして私も)解釈を辞めない。何故なら「推しが感じている世界、見ている世界をわたしも見たい」と思ってしまっているからだ。まあ私はもっと打算的な気持ちもあるのだけど。

この作品では、暴力事件でファンを減らした真幸くんは同棲をすっぱ抜かれさらにファンを減らし、所属グループは解散してその解散発表で薬指に指輪をしてくるという、まあ、なんだ、推しにされたくないことの見本市かな?って思ってしまった。引退した真幸くんの生活(と思われたもの)に触れたあかりは、とうとう人間は解釈できないのだと悟る。私たちから推しが消えたら、何が残るのだろう。

私はというと、もう自分の推しさんと真幸くんの違うところを探しては安心するのに必死。推しさんはファンからの求婚に「今は仕事のことでいっぱいで結婚は考えてません、ごめんなさい」って答えてるくらいだからしばらくは結婚とかしなそうだし、いやまあこれ2年前の情報だけど、うん。別に結婚して欲しくないわけじゃない。アイドルでもないんだから恋愛したり家庭を持つというのが幸せのひとつなら幸せになって欲しいよ、いやマジで。引退はしないでほしいけど。おじいちゃんになっても舞台に立っていてください。

わたくしめちゃくちゃ真面目な人間なので「推しとの適切な距離感」「推すにあたっての心構え」なるものを月2ぐらいで考え込んでしまっては結局「応援したいから応援するでいいじゃん!無理にゾーニングする必要ないな!!好きなスタイルでいこう!」って結論で終わるんですけど、この作品の中盤までってこういうフワフワした距離感も肯定してくれてるんですよ。「あたしは推しの存在を愛でること自体が幸せなわけで、それはそれで成立するんだからとやかく言わないでほしい」その通りですね、ハイ。まあ、あかりは「お互いがお互いを思う関係性を推しと結びたいわけじゃない」っていうけど、私の推しさんがファンに求めてる関係性ってお互いを励みにしてそれぞれの人生を歩むことだと思うからそこはちょっと違うんですけどねー、いやー、推しさんがそう思ってるのなら私がその関係性を目指すのは合法だよ。合法だよ!!かといって馴れ馴れしくするのも礼儀を欠く。私は繰り返し繰り返し推しさんのツイートを読んだり配信聞いたり写真見たりしてるから、つい一緒に過ごした時間が長いと思いがちだけど実際には全然そんなことないんだよな(戒め)結論、推しに恥じない人生を送りたい。

……とかまあ脳内でいろいろ言い訳やら懇願やらでごっちゃごちゃ考えてたら推しさんが「美味しいご飯作りましたっ!」ってツイートしてて本当そういうとこが好きだよ……。細かいことはなんでもいいや、これからも推すから、応援してる人がいるなって事実だけ受け止めてくれ。あといっぱい食べて幸せでいてくれ…

 

私の推しへの感情が強すぎて推しに関することしか書いてないんだけど、文体とか表現も好きな作品でした。友達といるときの「隣からいいねが飛んでくる」とか、一緒にいるのにお互いTwitterみてる感面白い。

推し側の人が読んだらどう思う作品なんだろうか。読んでほしいような、読んで欲しくないような。私たちの切実さを知ってほしいような気もするし、知らないで自由に活動してほしいとも思う。