だいたいうろ覚え

物忘れが激しくなってきたので備忘録

初等教育ロイヤル(赤組) 7/23マチネ

京都!は、さすがにまだいけないので。お家での観劇でした。

毎年公演されているこの「初等教育ロイヤル」ですが、すごいビジュアルの演目だなあというぼんやりとした認識しかなかったので今回観劇できてよかったです。ただ、あんまり好みではない脚本だったので、そういう感想を書きます。良かったところから書くので、適度にブラウザを閉じてください。

 

■良かったところ

キャラクター同士の関係性が良かった。個人的には6年生が好き。まともな(っていうと語弊あるけど)人しかいない貴重な学年。橋本さんが可愛かったです。あと4年生の佐々木くんと山口くんコンビがよかったなあ。いやー、佐々木くんと山口くん良かった。私が佐々木くん寄りの人間なので、彼が山口くんと出会えて良かった。佐々木くんが死んじゃうときの山口くん、叫ぶに近いんだけどそれだけじゃない感情を絞り出して乗せているような声で佐々木くんのことを呼ぶのがよかった。あと山口くんが佐々木くんのこと親友って呼ぶのがすごくよかった。

佐藤さんが死に際「肯定」を求めるのがあきよしじゃなくて林くんなのもとても良かったです。(後述します)林くんとお兄さんの対決もかっこよかったですね!刀キャッチからの殺陣かっこよかったなあ。

基本的にキャストの方々の声が良かったですよね。配信だと特に若い女性の声聞き取りづらかったりするんだけど、今回はそう言うこともなかったので良かったです。主演の樫尾さん(初舞台ってマジですか)セリフの強弱が好き。

 

■物語について(批判込み)

・主人公について

あきよし、めちゃくちゃ嫌なやつですよね。彼は眼鏡をつけてはいないけど、幾重にもフィルターを持っている。かなり古典的な男女の既成概念をもっており、のちに教頭にも批判されるのだが「女は男が守る、だから家事は任せた」とか言っちゃう、気持ちの悪いキャラクターだ。5年生の2人に対してアウティングするし。(こっちは作中で批判されていないので本気で苛立った)話の半ばくらいで「見えるものが全てじゃない」と言ったそばから「佐藤さんは眼鏡を掛けてないほうが可愛い」なんて言う。秒速で説得力マイナスにするのでこれにはウケてしまった。あきよしがこういうやつだから、佐藤さんの自己肯定の相手は林くんだったのは納得。終盤山口くんが「お前は戦っちゃだめだ」「負けるなよ、自分に」って言ってくれたのに速攻で眼鏡掛けて5年生ぶっ飛ばしてたの悲しい。山口くんの言葉全然響いてない…。あきよしは終始思考停止するキャラとして描かれている。他の学年の準備具合から考えると春休みの早い段階で今回のバトロワの説明があったのかもしれないし、そうだとすると彼以外の同級生が転校してしまったのも納得ができる。きっと同級生が逃げる算段を立てていた間、彼は現実逃避を重ねてきたのだろう。

・佐藤さんの眼鏡について

序盤の戦闘シーンが水鉄砲とかほうきで戦われていて、でも実は佐藤さんの曇ったメガネでそう見えていただけだった、というのは面白い。山口くんが井上くんに水ちょっとかけちゃったやつ、現実だとどうだったんだろう笑あのシーンの2人の動き可愛かった。

・校長、教頭について

突如赴任してきた校長、そして教頭はこの大惨事をセッティングした首謀者である。児童を争わせ、争わない学年には介入し「教育」を施す。(字面に起こすとただの受験戦争のようにも読めますね)一貫してふたりとも支配的な、大人の象徴であるかのように見える。しかし気になる点がふたつある。

ひとつは教頭と校長の関係性だ。教頭は重度のニコチン依存者だ。タバコを吸いたい時は校長に許可を得ようとするし、校長から教頭へ仕事のご褒美にタバコを、なんてセリフもある。極め付けは禁煙を望む教頭に校長がタバコを与えるシーンだ。この2人の関係性は全くフラットではなく、校長は欲望の管理者として教頭の上に立っている。

もうひとつは、2人の言動の不一致さだ。前述したとおり、教頭と校長は生徒に対して著しく支配的である。反抗的な生徒には銃だって放ってきた。しかし、後半2人の態度は一変する。「悔しければ力尽くでも止めてみたら」「あんたが止めないとみんないなくなるかもよ」ここからの2人はまるで自らを倒すようあきよしと佐藤さんにたたみかける。佐藤さんに銃を向けられた瞬間校長は両手を広げている。そして避けもせず銃弾という佐藤さんの教育の成果を受け取るのだ。

3年生に対する校長の行動もそうだ。それぞれが欲望を曝け出すように誘導した。そして陽キャを夢見る石川くんには「現実を正しく見るよう」教育を行った。

先程校長は教頭の欲望を管理する立ち回りだと書いたが、これは全児童相手にも言えるのではないだろうか。つまり、校長の目的は児童に自分の欲望に目を背けず向き合わせること。だからこそあきよしや佐藤さんに眼鏡を外してよく見るよう指導を行なったのではないか。その結果、自分が倒されようとも。

・校長室について

校長室とは結局何だったんだろうか。欲望を曝け出し、その先にあるもの。しかしそこに入れたのは欲望を曝け出していない松本くんだ。彼については「校長室を目指している」以外の心情が明かされない。彼への教育は未完了だ。最初に校長室に辿り着くのも彼なのだが、教頭に銃で撃たれてしまうことからもそれはうかがえる。

校長室とは「目指すべきもの」であり「ユートピア」であるというのが児童の共通認識だ。しかし校長室を真に目指した児童は松本くんだけではなかったか。6年生はそもそも好戦的ではなく、5年生のリーダー格林くんは校長室を目指してるわけではないと断言する。3年生はそれぞれの思惑で動いているし、2年生の校長室を目指す理由は行きたいからではなく約束をしたからだ。

それぞれが校長室とはなにかを分かっていて目指しているわけではない。いわば「校長室を目指すべきだ」ということこそが眼鏡の曇りなのである。目指していたからとはいえ、松本くんだけが校長室がなんたるかを知っていたとは思えない。きっと彼も曇りきった目的で校長室を目指した。校長室にたどり着いた時彼はなにを見るのだろう。彼の思い描いたものがそこになくとも、彼には曇ったレンズがある。現実逃避を重ね、そうやってユートピアで彼は生きていくのだ。これは義務教育の敗北の物語であり、悲劇だ。

 

アフタートークで話題に出た鈴木くんが松本くんに「5頭身」って言うくだり、脚本のひとが「ひどいなーって思ったお客さん、でもみんなウケてましたよね?」っていうのはどうなんですかね。キャストの山田さんが短足で売ってる、とか知りませんし。そもそも1ミリもわたしはウケてないんだわ。というかウケてたからなんなんだ?ウケたら良しとされるってことですか?ギャグならギャグで構わないんだけど、この発言はあまりにも創作者として、言葉を創る側として無責任すぎる。ノーマスクとか緊急事態宣言とかの話題を「1年生」に言わせてるのも心底ずるいと思った。本番の直前に「小難しいこと話してたりもしますがあくまでも小学生の会話なんです」って本人がツイートしてるんですよね。言い逃れの伏線にしか見えない。1年生たちの会話も要点を抜粋すると「ノーマスクは炎上したからダメ」(炎上したからダメ、「ウケたら良し」に通ずるものがある)「感染症は今までだってたくさんあるのに何故ノーマスクはダメなのか」というものだし、手洗いうがいを推奨してる1年生を倒すのは「手洗いうがい?なにそれ全然してない」っていう5年生だし。一個ならまだしもそういう思想の脚本なんですねって思うには十分すぎると思います。(実際にそうかは問題ではなく、センシティブな話題に首を突っ込むにしてはあまりにも不誠実という話です)キャストの方、頼むから健康で帰ってきてくださいね。

 

しつこくてごめんなんだけど全然気持ちがおさまらないのでこっそり追記。ほんっとアフタートークの脚本のひと、合わない。(合わないと言うか、、)せっかく役者さんが「これってこういう意味かと思ってて、好きな台詞で」って考えてくれてるのに「全く思い入れない」「お前にはまだ分からない」とか言うのが腹立つ。それ観客の感想にも言えるんですかね…?というか感想を否定をするためにきたのなら脚本家がアフトにいる意味ないですから。たいして歳もいってないのに若い子にマウント取るの、同世代ながら見てらんない。本当に思い出しても腹が立ってしょうがない。はぁ……。